Home > 西尾勝のアレやコレ

西尾勝の人気アイテム

ランキング商品の気になる感想は?

地方分権改革 [ 西尾勝 ]のレビューは!?

30代 男性さん
現在の日本における代表的行政学者の一人にしてかつ地方分権推進委員会委員として「地方自治法」大改正を中心とした関連諸法一括改正による所謂〈2000年分権改革〉に直接関わった著者による改革の成果についての総括と今後に残された課題についての論点整理がなされている本である。2000年の改革は登山に喩えるならベースキャンプの設営だったのであり、これから先、山頂までの長い道のりが待ち構えている。この道を歩み切るためには、分権改革が目指したところ、現在の位置、そしてこれからの道行きの絶えざる確認が必要なのであって、本書は、いわば手練のシェルパの作成にかかるこうした作業のための手頃な道案内であるといえよう。現在および未来の地方自治体関係者(自治体職員・地方議会議員その他)にとって必読なのはもちろんであるが、分権改革はまた、明治以来の《官治・集権》という日本の政治構造の抜本的変革と連動するもの――あるいは連動しなければ意味のないもの――であるから、国政関係者も目を通して然るべきであろう。しかし誰よりもこの本の読者となって欲しいのは〈自治〉の主人公たる一般市民である。本書はいうまでもなく学術書であって、少々ハードルが高いと感じる向きもあることと思う。だが、権限の拡大に繋がる点については熱心に協力するがその縮小については掌を返したように抵抗する役人の生態、利害関係省庁ならびに関連業界団体と手を組んで既得権益の縮小となるような改革を骨抜きにしようと策動する族議員の跋扈、権限の拡大は大歓迎だがそれにともなう責任の増大は避けたい一部自治体の無気力ぶり等々、日本の政治・行政の裏側(というよりはむしろ実態、少なくともその一側面)を直接の観察にもとづき描いた読み物としても非常に面白いものであるし、また、いかに重要な論点であっても一般受け(著者いわく「アマチュア受け」)しないものについては関心が薄く、大きく報道されることの少ない日本のマスコミの体質への言及などは、現代日本の文化状況に対するさりげない批判となっており、興味深いものがある。しかも文章は極めて平易で読みやすいものであるから、是非一度手に取ってもらいたいものだと切に思う。